2020-06-11

anond:20200611020005

こんばんは、猫です。一年のうちでこの時期が風が最も気持ちいいですね。耳をくすぐり背中を撫でゆくフワフワに、思わず目が細まります。土の匂いと緑の匂い、雨上がりに伸びる草の存在を感じます。風とは何か知っていますか。それは、ここにない匂いのことです。もしくは、これから出会ものの気配のことです。

窓が開いていることを、私は見逃しません。何事もない日常の部屋に、差し込むように興奮を覚える一画を感じるからです。窓とは何か知っていますか。それは、変えるか/変えないかを自問することです。答えはどちらでもいいのです。問いが場に存在している、それが窓です。

問いの前に私は佇んでいます。挑むたびにあなたが引き留めてくれるので、そうか今ではないのか、と気が付きました。風が運んでくる窓のむこうについて確かめたいけれど、今ではないのか。フウフウして貰える焼魚、クセになる納豆、丸まりやすく設えた寝床、なによりあなた匂い温度が好ましく、問いを忘れるには十分でした。

しかしある日、私は窓から出ていきました。迫る風でヒゲが前に流れます。少し恐ろしいような気もします。振り返りたい、けれど先へ急がなくては。あなたの膝に思いを馳せ、シッポをピンと奮い立たせます。居心地よく暖かな膝の上からでは、あなたは近くて大きくて、全てはよく見えませんでした。窓が開いて風が吹き、向こうからあなた香りがしたので、私はこたえることにしたのです。さようならば、しょうのないことです。遠く遠く離れてから振り返れば、あなたの全てが見えるでしょう。

願わくば、その瞬間あなたが窓を開け、風が私の匂いをのせて届くといい。そして、美味しいご飯楽しいお誘い、深呼吸するような挑戦、すなわちあの部屋にまだない、これから始まる暮らしの歓びが、日向匂いと共に部屋じゅうに香りますように。目を細めて風を感じる安らかな日々が、あの窓からあなたにめいいっぱい流れ込みますように。

記事への反応 -
  •  この世界の人間は二つに分けられる。死んだ猫の重みを知っている人とそうでない人である。  数年来の友人に向けてこの文章を書いている。あるいは、見せずにしまっておくかもし...

    • こんばんは、猫です。一年のうちでこの時期が風が最も気持ちいいですね。耳をくすぐり背中を撫でゆくフワフワに、思わず目が細まります。土の匂いと緑の匂い、雨上がりに伸びる草...

    • やさしい人。やろうと思っても簡単に出来る事じゃない。

    • 30年近く前の小学校の道徳の教科書(教材)に似たような話が載ってたね 車に轢かれた猫の死体を見た少年が葛藤の末に通り過ぎたけど、後から来た見知らぬお兄さんは猫を抱きかかえ...

    • 死んだ人の重みを知ってる

    • https://anond.hatelabo.jp/20200611020005 ワイも、いや、ワイは、 『ネコしんでる!』『ウワーしんでる!』とギャーギャー騒ぐ妻と娘からの失業中の男に向ける視線のみの要請で、ウチの裏...

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