夫に週末の予定を聞いた。彼は「産業技術ツアーに行く」と言った。「それ、何?」と聞くと、彼はこちらを見もせずに答えた。
「そのままだよ」
「そのままの意味だよ」ということだと思う。聞き方が雑だったかもしれない。「産業」も「技術」も「ツアー」も意味はわかる。「産業技術を見て回る催し物なのかな?」という想像はできる。しかし、私は名前からの想像ではなく、実際はどうなのかを知りたかった。夫がどんな立場で参加するのか、どんなところに行くのか、その程度のことでいいから知りたかった。私は夫と同じ仕事をしているわけではない。彼にとっては当たり前でも、私にとっては未知なのだ。
キテレツ大百科を知らない人に「ブタゴリラ?そのままの意味でしょ」と言うだろうか。キテレツを知らない人は、まさか「ブタゴリラ」が「熊田薫という人間」だとは思うまい。きっと大体の人が「ブタ」も「ゴリラ」も知っている。では、「ブタゴリラ」は?キテレツを知らない人にとっては、「ブタみたいなゴリラみたいな生き物かな?」という想像しかできない。これはこれで間違ってはいないが、「人間」にはならない。
彼が「そのままだよ」としか答えてくれなければ、私の中で「ブタゴリラ」は一生キメラだ。
もし、「なんでそんなことを?」ということを聞かれたときは、一度こう考えてほしい。「この人はキテレツを知らない」と。そして、少しでいいから情報を与えてほしい。その情報で足りなければ次の質問が来るから。「そのままだよ」と答えられたら、こちらはそれ以上聞きようがないのだ。
もし、未知のものに出会ったときは、漠然とした聞き方はやめた方がいい。「この人はキテレツを知っている」と思って聞いてほしい。
もし、過去にそんなやりとりをしたことのある人は、心の中で相手に謝るとともに、ブタゴリラにも謝ってほしい。「人間にしてやれなくてごめんな」と。
又吉より文章が下手