そもそも風が強い日だった。私が戯れに「フー」と息を吐いた直後に突風が吹くということがあって。私は自分の吐いた息が突風を呼んだのだと思い、自分が風の妖精であることを確信した。光でも火でも水でも氷でもなく"風"。幼児期の自分のセンスのよさを感じる。流行りのポケモンにも風タイプはいないのに。それからは事あるごとに私は風の妖精なんだよ、風を呼べるんだよ!と吹聴していた。
女の子らしくお姫様の空想もした。私は敵に囚われたお姫様であるところの自分が王子様に助けられる、というストーリーがいっとう好きだった。敵は悪い魔女であり蜘蛛を使役している。蜘蛛の糸に巻きつかれて、指の一本も動かすことができない私を王子様が助けにきてくれるのだ。この空想に限って言えば、王子様の顔や性格はどうでもよかった。それよりも美しいドレスに身をまとった自分が汚らしい蜘蛛の糸で動けなくなるということが重要だった。
成人した今でも私は触手が好きだし、空想ばかりしている。そういえば幼少期の頃から好きな童話は幸福な王子とパンを踏んだ娘だ。どちらも石化じゃねえか。