かっこいいバイクに乗って、旅に出て、旅行記に反応してくれる人がたくさんいた若者が自殺した。美味しいものを食べ、自然に触れ、文化に触れ、北海道を味わい、入水した。
いい感じの旅をして、家に帰らなかったのだ。
なんてドラマチックな話だろう。ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアだ。なんとなく、憧れる。
憧れる自殺とそうではない自殺があると思う。榎本喜八みたいに病んで死ぬのは嫌だけど、どことなく晴れやかな自殺には憧れる。雲間から少しだけ日が差し込む絵のような自殺。
不謹慎な言い方だけど、今回の一件は他人を惹きつける死だったと思う。楽しんだあとで死ぬ。華厳の滝に飛び込み、多くのフォロワーに自らの足跡を踏ませた若き詩人とは一味違う。自殺そのものが魅力的なのだ。
放置された彼のバイクはエンジンがかかりっぱなしだったという。なぜだろう?理由を考えれば考えるほど味が出てくる。伊丹十三の謎の死みたいな脂っこい味じゃなく、単純に美味しい。
こういう自殺ははっきり言って迷惑だ。俺みたいに魅力を感じる人は少なくないと思う。別に自殺したいわけじゃない。ただ魅力的で、「いいなあ」と思ってしまう。
弱りきった桂歌丸は、見舞いにやってきた山田くんに力を振り絞って「山田くん、ありがとう!」と言った。こういう死も良い。魅力的な死に方にはとても憧れる。死ぬには良い日だ、と思いたいものだ。