心が、いつもと違う状態になることがある。
それは、突然やってきて、いつの間にか消え去っていく。
唯一分かっていることは、色々な条件が揃った時にだけ起き、それゆえに普段の心の位置とは違う、他の状況では実感できないような心の感覚。
楽しいとか嬉しいとか悲しいとか、そんな簡単な言葉ではとても言い表せない、特別な心の感覚。
小さい頃には、それを体験することが多かった。
例えば、祖父母の家に遊びに行った帰り道、頭を預けた窓から伝わる振動と車の匂い、流れ行く木々の景色、夕暮れ前の陰り具合、その日の思い出。
それらが全て一体となって、自分の心をいつもと違う場所に連れて行く。
嬉しいでも楽しいでもないのに、何故かうっとりとその感覚に浸ってしまう。
大人になってからは、そういう気持ちを新たに「発見」することはなくなったけれど、最近になって、ふとした瞬間に、既に味わったことのあるその感覚を思い出すことが増えた。
触れたいのに触れられない、その感覚の「存在」を思い出しただけで、感じているわけではないし、一瞬で消え去ってしまう。
今の自分がそれを感じられないことがとてももどかしく、同時に遠い日に味わったその感覚を懐かしくも思う。
掴みどころのないこの感覚を、どうにかまた感じることはできないだろうか。
大人には感じられないのだろうか?日々の暮らしの中で、大事な何かを失ったような気もするけど、失ったそれが何かも分からない。