空港を出て車を走らせて直ぐの車1台がやっと通れる田舎道をレンタカーで走る中、なんとも言えない気持ちが込み上げてきた。
毎日この匂いに囲まれて暮らしていたことに、30年経ってやっと気付いた。
学校帰りにおたまじゃくしやタガメを捕まえて、毎日泥だらけになっては母に呆れられた初夏の日々。五月晴れの風に乗って漂う飼料の匂いに鼻を摘みながら牛舎に搾りたての牛乳を汲みに行く。
うだる暑さの中、アイスを咥えて縁側の板間に寝転んだ先に見えた面白味のない一面の緑の絨毯を見つめるうちに寝てしまった夏休み。
古新聞や廃材を燃やして焼き芋を作った空の高い日、黄金の穂先が風に揺られて擦れる音が、幾重にも重なって今でも耳の奥にこだまする。
今、私の子供はタワーマンションに囲まれた校庭を走り、遠足で収穫体験をし、紙パックの牛乳を買う。
ただやみくもに前に向かって歩いているうちに背負う責任と幸せはどんどん重くなってしまった。今日もまた満員電車に揺られて、なにが正解かわからない今を必死で生きる。