「女は愛すより愛されるほうが幸せなのよ」
幼い頃からそう言い聞かされて育って、私も私のことが大好きだという男とばかり付き合ってきた。だけど、何かが足りない。
何が足りないのだろう。彼には「本当はお前、俺のことなんて好きじゃないんだろ」だなんて心外な言葉を浴びせられたりするけど、私はきっぱりと否定ができない。
そりゃあ、キスやセックスは楽しいし彼とは家族のような間柄で仲もいい。友達には言えないような様々なことを彼だけが知っている。
でも、これは恋なのだろうか。
ここ最近、ずっと頭の中に居座っている男の人がいる。いつでも彼の記憶が映し出されて、いつでも彼のことや彼の好きなものについてを考えてしまう。一緒に歩いているとき可愛い女の子を見かけて
「あの子可愛いな」と言われると複雑な気分になるし、その人といるといつでも楽しい。触れられたいと思うし、彼のことをずっと見ていたいと思う。私の知らない彼の過去に嫉妬するし、元カノのことを聞くと無性に悲しくなる。
もしかしたら、これは恋なのかもしれない。
でも、この人と付き合って幸せになれるだろうかと考える。今の彼氏より傷つくような気がするのだ。そもそも、あの人は可愛い女の子が好きだし、私のような女はタイプでもなさそうだから付き合うことも難しそうだ。
彼氏はいつでも私のことだけを見て、私のことだけを好きだと言ってくれる。
だから、私はこうやってずっと離れることができないのだろうし、ずっと彼氏のことを好きで居続けるのだろう。
あの人への恋心なんていつかは消えてしまうだろう。だれにも伝えなければ知られることはない。知られない感情の賞味期限は早いのだから、私が一人で我慢さえすれば今のぬるま湯の状態を維持できるはずだ。
「女は愛すより愛されるほうが幸せなのよ」
その言葉を信じ続けている。