医師には生きられる保障は無いときっぱり断言され、飼い主である私の落ち度を呪いながら三日三晩寝ずの看病。
明けて4日目、ついに猫は峠を越した。
体重は元気な頃の半分以下まで落ちたが、それでも日に日に食欲は増しもう大丈夫だと思っていた時ふとある変化に気づいた。
猫が喉を鳴らさない。
元来まるで犬のようだと言われるほどに懐こい猫で、その件がある以前はそっと撫でるだけでも喉を鳴らした。
ふつふつと湧くような低く甘いその音が私は大好きで、だから用もないのに家にいるときは猫を撫でた。
しかし元気になってからと言うもの、猫はさっぱり喉を鳴らさない。
撫でれば以前同様とても嬉しそうにするし、帰宅すれば足にまとわりついてかまえかまえと大騒ぎする。
定期健診でも血液の数値は安定し心身ともに元気になったはずなのに。
なんとなく、猫が私をゆるしていないのでは無いかと思った。
私が病のシグナルをすっかり見落としていたせいで猫は苦しんだ。
痩せて全身の毛が抜け嘔吐し窒息しそうになっていた姿を思い出しては毎夜布団の中で後悔ばかりして自分を嫌悪ばかりして気づいたら頭に500円玉大のハゲができていた。
実は私はこの猫ともう1匹の猫を飼っていたのだが、そのもう1匹も1年と少し前に亡くしている。
壮絶な最後でもう二度とこんな経験はしたくないと思った矢先に件の猫が発症。今思えば多分私も随分と精神が止んでいたのだろう。
とにかく大きなハゲを頭にこさえて、毎晩後悔してひとりめそめそしたりしながらも先日猫を撫でていたら指先に僅かに振動が伝わったのが分かった。
あれ、と思い指を止めると確かに本当に微かにだが振動しているのがわかる。
そのままそっと猫の首あたりに耳を近づけ息を止めたら猫の喉が小さく小さく鳴っているのが分かった。
瞬間、滝のように涙が出た。
そうか、ずっと鳴らしていてくれたんだ。
理由は分からないが(病気がきっかけかもしれない)猫は喉を以前のように元気いっぱい鳴らせなくなってしまっていたようだ。
それでも猫はあれからずっと微かに小さく喉を鳴らしていたのだろう。
1年近く気づけないとはやはり情けない飼い主だけれど、そんな事はもうどうでも良いと思うくらい泣いた。
私にはもう動物なんて飼う資格など微塵も無いのだと思い、せめて少しでもと償うようにこの1年生きてきたと思う。
今も傍に猫は丸まり、私が撫でれば聞こえない音で喉を鳴らす。
喉の鳴らし方が違うって点ちゃんと獣医に診てもらったの? 別の病気の可能性があるじゃない。 感傷的になってる場合じゃないでしょ。