「N氏がさ、超絶すんごいウルトラコンピュータでもって、万物の理論を組み込んだビッグバンプログラムを起動させたとするじゃん?」
「は?」
「N氏の発明は世界一だからさ、ラプラスの魔物の計算力をも超えちゃうわけで――」
「ちょっと待って。何の話?」
「南極の話」
「なん……きょく……?」
「うん。南極の話。続けるけど、いい?」
「…………」
「色々端折るけど、とにかく起動したプログラムは、ガタガタガタガタと宇宙の創世から太陽系の誕生とか生物の発生とか人類の歴史とかを、正しく情報を吐き出すようになるわけよ」
「随分と端折ったね」
「んで、助手と二人でさ、経過を観察してて、あっこれって成功じゃねってわかって、喜んだりするわけ」
「感無量と」
「そう。でもさ、その様子までウルコンに記述させられてしまっててね。んで、ふと気がつくわけよ」
「何に」
「果たして我々はどこに生きているのだろうかって。そもそも我々は本当に現実を生きていたのだろうかって、仮想の自我と現実の自我の境界が曖昧になって、ちょっぴりホラーな感じみたいな」
「……酔歩する男?」
「似てるかも」
「でも、手垢にまみれてる」
「うん」
「加えて、宇宙の創世から正しく現在に至るって、確率的にどうなのよって」
「そこはさ、ほら、N氏だから」
「許されるとでも」
「許されるでしょう」
「許されるのかなあ」
「許されるべきだと思うよ」
「まあいいけど、なんでそんな話になるの?」
「唐突に思いついたから。形にしておきたかったけど面倒くさかった」
「手垢にまみれてるのに」
「いえす」
「へえ」