2014-08-01

となりで無邪気に喋ってる彼女への、唯一の秘めごと。

 

ある曲の歌詞に、次のようなものがあって。

話さ、あくまでも仮の話だ。

 

  美しいままのその花もいつか/少しずつ乾いてゆくことになる

  いつまでもこうして眺めているさ/嬉しいやら哀しいやら

 

いつかの僕は彼女の寝顔を見ながら「嬉しいやら、哀しいやら」と、悦に入った。

まぁ、僕が思っていた未来現実は、少し違っていたのだけど。

 

彼女のことを本当に愛していたとか、その想いの程度を説明するのが難しい。不毛とさえ。

誰かに認めてもらう必要がないぐらい、彼女のことが大切だった。

大切というか、……彼女は僕自身だった。言葉しづらいけど、他の人とは違ったということ。

 

よくある話しで、そんな彼女とも別れてしまう。些細なケンカ

若かった僕は、彼女の大切さを気付かずに、自分人生さえも軽く考えていた。

「なんとかなるだろうし、彼女よりいい女とも付き合えるさ」なんて、若気の至りどころじゃない。

 

あれから20年が経ち、僕らは40歳を過ぎた。

あっという間に。とても、幼いままに。ままごとのように。

 

幸か不幸か、共通の友人が多かった僕と彼女は別れた後も会うことがあって。

割りと仲は良い。勿論、セックスやそういった類いのことは何もない。一線。

 

彼女は僕が知らない人と結婚したし、……セックスとか、そういうのって安易で退屈すぎる。

僕はといえば、たまに若い子と付き合ったり、すぐに別れたり。結婚願望もない。

 

子供がおらず、旦那さんが単身赴任彼女と、たまに会う。1ヶ月に1回ぐらい。

食事して、少し呑んで、くだらない話しで笑ったり。

元々の相性が良かったんだろう、2人でいると会話は尽きない。一線を残して。

 

可愛くて、美しくて、綺麗で、気立てが良かった彼女も、40歳を過ぎたらオバさんだ。

自由奔放だった性格は、肌のシミとして残された。

笑顔ステキなのは変わらず、目尻のシワとして刻まれた。

 

少しずつ乾いていく彼女を、ゆっくりゆっくり見ているのがとても幸せで。

 

「この前、紫陽花を見てきたの」と、彼女iPhoneにある写真を見せてくれた。

決して、iPhoneを僕には渡さずに。

 

気付いてるよ。君が操作する隙間、画像一覧が少し見えた。

たくさんの紫陽花の後の方に、同じぐらい多くの旦那さんとの写真があった。

まだ、セックスの時に写真を撮ってるんだね。昔と変わらず。

 

夫として、彼女のことを看取るんだろうと思っていた。そんな未来はこなかった。

それでも幸せだよ。僕らは今の距離感がちょうど良かったんだろう。この、一線が。

乾いていく彼女が、僕だけが知っている、その乾き具合が、そこや、そこや。ああ。

 

僕のとなりで無邪気に喋ってる彼女に、唯一の秘めごと。

老いていく君が、とても愛おしい。

 

  決して枯れない花をそのまま/そっと記憶の庭に埋めた

  いつまでもこうして眺めていたい

  エレウテリア/エレウテリア/赦せ

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