家庭に問題があった。
父に問題があった。
母は私に言った。
「他人を変えることはできないのだから、自分が変わりなさい」と。
私は自分を殺した。
父の顔色を窺った。
祖父母に都合の良い振舞いをした。
進学をした。就職をした。
私は自分を殺し続けた。
それ以外の処世術を知らなかった。
という意味ではなかった。
という意味だった。
そのことに気付くまでに、三十数年が経った。
父も祖父母も死んだ。
母はこれからの限られた時間の中、自由な生活を謳歌するのだろう。
私の時は戻らない。
歪んで育った私の心も戻らない。
辺りを見渡せば、多くのものを手にしている友人たち。
彼らにも苦労があったのだろう。努力をしてきたのだろう。
それは解るけれど、何も無い私の手には、あまりにも眩しい。
何も無い私は、これからどうして生きていけばいいのだろう。
何を糧に過ごしていけばいいのだろう。