禰豆子は「白い女」であって兄のピンチに兄を支えるわけですが、敵である堕姫は基本的に妓夫太郎のおんぶにだっこで、自分が首を斬られると「皆で邪魔してアタシをいじめたの!!」(原作第10巻第86話)、「お兄ちゃん何とかして」(原作第11巻第94話)と泣き喚くことしかできないわけですね。無惨も「案の定堕姫が足手纏いだった」(原作第12巻第98話)と、妓夫太郎と堕姫をペアにしたことを後悔するような発言をしています。堕姫は兄を支えられず、男に依存することしかできない「赤い女」です。鬼に「堕ちた」ということ、遊郭に「堕ちた」ということが二重に描かれていて、「吉原遊郭編」は構成として美しいと言えると思います。なお、妓夫太郎が「お兄ちゃん」と呼ばれている点については、泉鏡花『黒百合』(1898年)における「芸妓の兄さん、後家の後見、和尚の姪にて候ものは、油断がならぬ」(『鏡花全集 巻四』岩波書店、1941年、270頁。漢字は新字体に直した)という一節を踏まえると味わい深いですね。芸妓は間夫のことを兄と呼ぶ。女の鬼が遊郭に潜んでいるという設定からして、本当に単なる「お兄ちゃん」なのか、という含みがある(笑)。