社会と称される場所で行き、彼が世間と称する狭い宇宙で彼が学んだのは以下のことなのだろうと想像する。
人を人と思わぬ技術。人を義務を遂行する機械として見る目を彼は身につけた。なにもかも不足ばかりの環境でスケジュールを守るため、彼は人間に関して一切の人間性を考慮することをやめた。私は彼が、私の見知らぬ女性をクソ女と呼ぶのを聞いた。おそらくは同僚、さらにおそらくは後輩。彼にとって、自分が与えた義務を無事に遂行できない者は糞同然ということだろう。恐ろしいことに、自らがクソ女と呼んだ女性とこともなげに話しさえする。彼にとって、今眼前にいる人間は義務を遂行する機械であるのでクソ女などではない。彼の頭の中でのみ機械はクソ女となる。
努力をしたという自負。馬鹿だった自分でも努力によってここまでたどり着いたという自信。彼はその自信を隠そうとしない。彼の自信は歪んだ形で発露する。すなわち、こんな馬鹿な自分でも努力によってここまでたどり着いたのだからお前たちもできるはずだ、というやつ。
彼は優れた能力を持っている。彼にはその自覚がない。やれば誰でもできると思っていることをただやってきただけであり、それは誰でもやれて当然のことだと思っている。彼のものさしは彼自身で完結している。