昔はテレビのリモコンに「ステレオ」っていうボタンがあって、それは親から「絶対に押してはいけない禁忌のボタン」と言われた。
「ステレオってなに?」と聞こうとすると「大丈夫だよ、大丈夫だからね」とはぐらかせ、さらにしつこく聞くと「やめなさい、死にたいの!?」と逆ギレされる。
その形相から「知られたくは無いんだな」ということは容易に想像できた。
ある日、兄がステレオの意味を知った。どうも学校の友人から聞いたらしい。
忘れもしない、3学期が終わって、父の実家に遊びに行って婆さんが昼飯に作ってくれたチャーハンを電子レンジで温めていた時だ。
兄が
と言った。
僕は「だめだよ、やめようよ」と訴えたが兄は意に介さない様子でリモコンを手に持ちステレオボタンを押した。
すると、急に兄の顔に変化が生じた。みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく流して、ついには持ってるリモコンを落とした。
僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄に聞いてみた。
「何だったの?」
兄はゆっくり答えた。
『わカらナいホうガいイ……』
すでに兄の声では無かった。兄はそのまま外に出ていった。
僕は、チャーハンを食べながら兄の様子がおかしかった、きっと何かあったに違いないとリモコンを手に持ってステレオボタンを押そうとする。
僕が「どうしたの?」と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が
と迫ってきた。僕は
「いや…まだ…」
と少しキョドった感じで答えたら、祖父は
「よかった…」
と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。
僕は、わけの分からないまま、子供部屋にいるようにと言われた。
母と父が来ると、みんな泣いている。よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、「ステレオタイプ、ステレオタイプ、ステレオタイプ」と呪文のように叫んでいる。
「兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。」
僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。
また夏休みに実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。
何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。
ググれカス
くねくねじゃねーか