彼女について語ろうとするとき、僕は自分がひどく不器用になったように感じることがある。
デレク・ハートフィールドの「暗黒期」の作品にも少し似ているかもしれない。
オーケー、とにかく話を進めよう。
僕がはじめて彼女とまともに話したのは、ひどく暑い夏の日の午後だった。
彼女は、ローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」を口ずさみながら、庭で穴を掘っていた。
「なんで穴なんかを掘ってるんだい?」
そう尋ねる僕に、彼女は答えた。
「私は、フライパンを、埋めなければ、ならない」
力強く語る彼女の口振りは、厳しい選挙を勝ち抜いた大統領の勝利宣言を僕に思い起こさせた。
彼女の足元には、哀れにもこれから埋められようとしているフライパン。
そのフライパンにこびりついた黒焦げは、ゴミを漁るカラスの羽のようにも、宇宙の最果てーもちろん僕はそれを実際に見たことはないけれどーのようにも見えた。
こうして、僕は彼女と寝た。
翌朝、僕が目覚めると、彼女はまた庭にいた。
彼女は、昨日の穴から少し離れたところに別の穴を掘って、卵を埋めていた。
「卵を埋めるなんてもったいなくないか?」
僕は尋ねるべきではなかったのかもしれないが、尋ねずにはいられなかった。
彼女は、愛犬を亡くした飼い主のように悲しそうな顔をしてこう言った。
「あなたは、フライパンと卵があるとき、卵の側に立つ人なのね」
それが別れの言葉であることは、いくら鈍感な僕にだって明白だった。
僕は、何も言わずに庭を去り、二度と彼女と会うことはなかった。
僕と彼女の話はこれで終わりだ。
そこに湧き上がるような歓喜はないし、静かに沈み込むような絶望もない。
今となっては、僕は、彼女の顔を思い出すことすら難しい。
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