行きつけの銭湯は、住宅街と商店街の間にあって、外観は古いけど、中は設えを新しくしている気持ちのいいトコだった。番台のオバサンは雑な人だったけど。
いつも同じ時間帯に行っていたから、俺以外の客もいつもの顔ぶれで、話したことはなくても年上の人には会釈くらいはしていた。
その時に浴場にいたのは6人くらいだったと思う。後頭部の薄い小さなおじさん、色黒で小太りの怖そうなおじさん、歯列矯正の器具を付けた高校生くらいの子、日曜も作業服で来る40歳くらいの労働者っぽい奴、とか。
体を洗った俺は、浴槽に浸かりに行ったんだ。湯が出る口には怖いおじさんがいたので、そことは反対の位置に落ち着いてもたれた。
しばらくして、脱衣場から幼女とその父親が入ってきた。新顔だ。
幼女はもちろん裸で、目の高さからも、俺は真正面からの股間に視線が吸い寄せられた。気まずいので、湯で顔を拭って、くつろいているフリをして別のところに視線をやった。
俺以外の客も何かソワソワしている風に感じた。
怖いおじさんは幼女をガン見してた。
労働者の奴が、体に少し泡を残したまま浴槽に入ってきて俺の前方に座った。
こいつの顔の向きは洗い場の斜めに向いていたが、その頭の固定具合から、横眼で幼女を見ているんだろうと思った。
しばらくすると幼女は歩きまわって桶を拾い、洗い場の父親のトコに集めていた。やっぱりみんなソワソワしていた。
正直に書くと、俺は軽く反応していた。
俺はなるべく気づかれないように、他の男たちが視線に入らないように、額を拭うように顔を隠して幼女を観察した。
湯の流れが当たって、半分起きた。
マジになっても困るので、俺は他をみた(途中、高校生のプリ尻に視線を奪われたのは苦かった)。
前方の労働者の頭は固定されたままで、さすがに俺もキモイと思った。
父親も自分を洗い終わって、浴槽には入らずに幼女とそのまま出ていくようだった。
二人が出ていって、俺は軽く息をついた。
怖いおじさんは。浴槽を出て洗い場の方に行った。
労働者は、奇妙な軋んだような動きで頭を動かして脱衣場を見ていた。
俺は湯に当たりそうになっていたが、完全に落ち着くまで浴槽にいることにした。
するとまた脱衣場の戸が開いて、涼しい空気と共に、幼女だけが洗い場に戻ってきた。
労働者はもう隠しもぜずに浴槽の縁に近づいてガン見していた。
脱衣場の戸から、眼鏡の父親が顔を覗かせた。転ぶなよ、とか言っていたと思う。俺は額に手をやって隠れた。
幼女が脱衣場に引っ込んだあとも、戸が開けたまま、父親がこちらをみていた。
眼鏡の父親がこちらをみていた。
俺はやばそうだと思った。
父親が肌着姿のまま入ってきた。
浴槽の縁の労働者のトコに来て、どうしましたかと見下ろして尋ねた。
労働者が硬直していたら、いきなり腰の入ったアッパーが飛び出した。
労働者の顔面が後ろに仰け反って俺の側まで来た。
父親は、何見てんだお前、とか言った。
俺は巻き込まれないように小さくなってうつむいた。
父親は「何見てたんですか」と丁寧な言葉で繰り返した。俺? 俺が聞かれている? やばい? と顔を上げられずにいたけど、あくまでその労働者に対してだったようだ。
労働者は浴槽の中心くらいで硬直していた。俺は自分に関係ない、関係ないと確信して、その労働者と父親を斜めに覗いた。
出てきて向こうで話しましょうよ、聞こえてるんですか、なあおい、と眼鏡を曇らせたまま父親が責めていた。
労働者の周りが赤く滲んでいた。
おい、おい、と言葉が荒い父親に、周りでびびっていた客らの中から怖いおじさんが出てきて止めた。
父親は少し冷静になったのか、眼鏡を外しておじさんと小声で話をした。俺の前の硬直労働者を顎で指しながら。
騒ぎを聞いて、番台のオバサンが覗きにきた。
父親は、労働者を睨みつけて脱衣場へ出ていった。
俺は浴槽を出ることができず、赤く染まっていく湯に労働者と浸かってた。
絶対にあの父親と脱衣場で一緒になりたくなかった。
タイミングが違えば殴られていたのは俺だ。
ロリコンはきもいけど、女の子を男湯につれてきて、何見てんだ、はねーよ。
男湯に入れるような年齢の女の子をガン見する方がきめーよ。 何か麻痺してるんじゃないか?