2024-02-23

【尿話リライト】小便の色

普通おしっこの色って黄色とか白とか、まあせいぜいその程度じゃないですか。でもね、その日は違ったんですよ」

体験談を聞かせてくれたAさんは声をひそめて続けた。

「とにかく違うっていうか、おかしかったんです。色が」


当時、Aさんは仕事上で厄介な案件を大量に抱えており、残業続きの毎日だったという。

その日も彼は夜遅くまでオフィスに残っていた。

Aさんはフロアの端に設置された自販機眠気覚まし缶コーヒーを買ったついでに、用を足しにトイレへ向かったそうだ。

Aさんの職場にあるトイレは個室しか設置されていない。鍵を閉め、便座を上げ、チャックを下ろし、用を足す。

ふと、便器を見下ろしたAさんは我が目を疑った。


茶色

便器に溜まった自身の尿が茶色いのだ。


念のため自身肛門トイレットペーパーで拭ってみる。

が、何もついていない。

まり、目の前の茶色い液体はウンコではなく、尿の可能性が高いだろう。


疲労のあまり尿道から下痢便を放ってしまったのではないかとも考えたが、人体の構造を考えると不可能だ。

そもそも便器に溜まった茶色い液体は下痢便のそれとは違い、明らかに小便特有アンモニア臭を放っていたという。


目の前の信じがたい光景に震え上がったAさんは、買ったばかりの缶コーヒーの中身を便器にぶちまけた。

そして、水洗レバーを下げ、いつもより念入りに手を洗い、便所を後にした。


なぜ缶コーヒートイレに流したのですか、と聞くと、Aさんはこう答えた。


「うーん、僕にもうまく言えないのですが……。そうすれば、説明がつくというか、『便器茶色いのは缶コーヒーを流してしまたからだ』って説明できるというか。

ちょっと前に、小便が泡立っていたから爪楊枝で急いで泡消した、みたいな小噺が、ネット上で話題になったじゃないですか。

あの時の僕も似たような理屈で、目の前のヤバい出来事に、無理やりにでも辻褄を合わせたかったんだと思います


Aさんは何かを諦めたような笑みを浮かべ、こう締めくくった。

「信じられない事が起こってしまったら、頭では理解できなくても、理屈の上では“解決した”ってことにしないといけないんだなって、あの茶色い小便のことがあってから、そう思いました」


そう語るAさんの顔は、わずかに茶色を帯びていた。

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