■俺は自殺するほど弱くないが
自殺するほど強くもない。
どうやらここ最近、鬱になったらしい。
きっかけには覚えがある。
それは俺だけの責任じゃなくて、責められた後に「こっちにも非があった」と上司が認めてくれたことで多少は重責から逃れられた気はした。
でも駄目だった。
最初は風邪の引き始めのような感覚で、なんとなくけだるく、頭が重く、要領を得ず考えがまとまらない。
ああ、これが噂に聞く”鬱”というものか。
そんな風に俯瞰できるほどには冷静で、しかし罹るとそれは本当に風邪のようなもので、症状がはっきりと表れる頃には随分と冷静さを失っていた。
不思議な感覚。頭がぼんやりし、季節風邪を患ったかのような集中力の欠き。
俺はその景色を壁の中に見る。
クリーム色をした壁を見ながら、それを思う。
壁をぼうっと、眺める時間が増えた。
うちには猫がいる。
猫もたまによく、壁のほうをぼうっと眺めて過ごしていた。
あの時はよくわからなかったが、今ではなんとなくわかる。
猫もきっと時間を見つめていたんだ。
その際に症状のことを話し、病院へ行こうと思っていることを話したら「やめておけ」と止められた。
その理由は分からないし、そのことを冷静に考えられるほど今は頭が回らない。
今ただ、ぼうっと増田を眺め、そして壁を見つめている。
猫は傍でじっと壁を見つめている。
俺は猫と一緒に時間を見つめている。
俺は自殺するほど弱くはないが、
自殺するほど強くもない。