超面倒くさいことで有名な先輩だったので
と答えておいた。
「だよなー!普通そう思うよな。やっぱアイツらおかしいよなぁ?」
そう言いながら先輩は満足そうにタバコ休憩へと入っていった。
やったぜ!
『普通は』の部分を意図的に「考える」と「錆びない」の両方にかけるというインチキ日本語テクの勝利だ。
一応細くするが、ステンレスはあくまで『錆びにくい』であって『錆びない』ではない。
一般家庭で使うにおいてももらい錆や塩分による腐食を多少は警戒する必要がある物質だ。
ステンレスは鉄とクロムの合金だが、このうちクロムが酸素とくっついて酸化クロムになるとそこが酸化防止の被膜となってサビの侵食を防ぐ性質がある。
酸素が近くにあれば勝手に黒錆加工が行われていくというイメージを持ってもらえばよい。
さて、問題となるのはあくまでステンレスは表面に膜を張っているというだけであり、その膜以上に錆びやすい環境が整えば酸化は進行するのである。
塩はクロムよりも酸化傾向が強いため酸化クロムが酸素を奪われてただのクロムに戻ってしまう。
すると大量の塩水の中で裸のクロムと裸の鉄が晒されることになり、このとき裸の鉄が水中で酸素で結びつくことで赤錆へと転じていく。
海岸地域ではこれが高頻度で繰り返されるためステンレスであっても簡単に錆びてしまうのである。
ステンレスは錆びにくいが条件が揃えばアッサリ錆びる。
これは材料工学についてちゃんと学んでいればすぐに得られるレベルの知識だ。
我が職場の先輩はそんな事さえ知らずにえばり散らし、現実に存在する錆びたステンレスに対して「そんなものはありえない!」と言っているのである。
私が彼より上の立場なら「なっとるやろがい!」と叱り飛ばして勉強し直しを命じていたやも知れぬ。
まあその先輩は人柄が面倒くさいのでそういうのを放置されてここまで来たんだろうな……可哀想に……人格は学ぶ機会を左右するということか……。
👦「せんせー、錆は酸化反応とするなら、ステンレススチールは最初からサビてるんだとおもいまーす!」
ステンレスは鉄だよな。 ふつー、鉄は磁石に着くよな。
大人だなあ