2022-06-20

anond:20220619032155

そこには目を血走らせた平均的な小学校高学年男児程の体長のボノボの群れが人間を生きたまま喰らってる様子が写っていたのだ! しかもその中心に映っている人物の顔にはモザイクがかけられていた。しかし美和子にはすぐにそれが誰なのか分かったのだ。

「これ、やっぱり…!?

そう言うと美和子は、全身から力が抜けていくのを感じた。

「なぁにそれ?」

時江がそう言って首を傾げた。美和子の目の前にあるタブレットPC不思議そうな目つきで見つめながら。

ここは、美和子の自宅マンションリビングルーム。時刻は午後三時過ぎ。天気はよく晴れ渡っていて、何をするにもいい天気だ。

美和子は時江から送りつけられたボノボの群れの写真については話した。ただし、「黒魔女伝説の事について調べようと思って」という言葉は伏せておいたのだが。

時江は興味深そうに美和子の説明を聞いている。だが、やがて納得したのか小さくうなずいた。そして言った。

「なるほどねー、そういうことだったのねぇ」

「えっ?どういうこと?」

時江の反応が思っていたものと違ったので思わずそう聞き返した。

「あのね、うちの実家で働いてた人の中に一人変り者がいたんだ。何というのか、こう、妙なこだわりを持ってるというか……。そう、たとえば、こんな感じかな」

時江はそう言いながら、左手の掌の上に右の拳を乗せてみせた。そして続けた。「たとえばね、ある物を見て『これはいいものだ!』と思うとする。するとね、必ず『この商品の良さはそれだけではない、この商品の魅力はもっと別のところにある、つまりは』なんて、やたら長々と解説し始めるんだよ」

時江の言葉は美和子にとってとても分かりやすものだった。美和子にもそういった経験があったからだ。

だが、時江の様子は明らかに変だ。

美和子のロシアで培われた危機意識がフル稼働し始めた。美和子はソファから立ち上がって後退りした。

「じゃあ、あたし、そろそろ失礼するわね」

「どうしてよぉ?」

時江は不満そうだった。しかし、だからといって引き下がるわけにはいかない。美和子は必死になって笑顔を作った。すると時江は悲しげな表情になった。

「そう…やっぱりあのボノボの群れの写真が良くなかったのね…」

時江はそう呟くと、タブレットPC操作し始めた。

時江が操作している間、美和子は何気なくその様子を見ていたが、すぐに後悔することになった。

何故なら、例の写真タップしてしまたからだ。

そして、時江はその写真を拡大した。

そのせいで再び、目を血走らせたボノボの群れが人間をむさぼり食う様子を見てしまった。

「これねぇ…『黒魔女秘法書』に記された呪詛ひとつなの」

美和子はあまり出来事絶句していたが、やがて我に返ると聞いた。

――黒魔女秘法書?そんなものが本当に存在するっていうの!?でも……まさか……

その考えを頭の中で否定しようとする美和子だったが、どうしてもできなかった。

なぜなら、その昔、自分の父が語ってくれた昔話の中の世界が、目の前に広がっているような気がしたから。

いや、それはもう、ただの昔話などではなく、実際にあった出来事なのだ

その考えが頭の中に浮かんでくると次第に心臓の鼓動が激しくなり始め、ついには胸が苦しくなるのを感じた。

記事への反応 -
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