2022-06-28

anond:20220620015545

美和子は何とか呼吸を整えようとしたが、うまくできない。息苦しい上に全身から汗が流れ出し、立っているのも辛くなった。

ちょっと、だいじょうぶぅ?」と心配そうに尋ねる時江に対して美和子はかろうじて、声を出した。

大丈夫……」

とだけ。そしてなんとか落ち着きを取り戻すことに成功した。

時江は美和子が落ち着くのを待っているようだ。そして再び話を始めた。

それによると、この黒魔女伝説の発端となる話は約四百年前まで遡るそうだ。この黒魔女伝説の話は様々な文献で紹介されているらしいのだが、古い文献では旧石器時代隕石落下事件に関する記述が最古のものとされているという。この話によると、ある日突然空の彼方から隕石のようなものが大量に降り注いだ。そしてその中には人間死体が含まれていたという話である。当時の人々は混乱状態に陥ったに違いないのだが、その後の調査により、隕石の正体は人間遺体であったということが分かってきた。さらに興味深いことに、この隕石には不思議な力が備わっていたのだ。例えば死者が蘇った事例があるとか……。

この話を聞いたとき、美和子は背筋が凍る思いがした。しかし、この程度の話ではまだ序の口だ。

時江の話によれば、実はこの事件とほぼ同時期に、世界各地で奇怪なことが起こっていたという。ある地域では火山噴火が多発し、また別の地方では巨大竜巻が頻繁に発生した。しかもそれらの自然災害と同じような時期に、ある地域で奇妙な儀式流行したのだという。時江が調べたところ、この謎の流行現象は後に当時そこに生息していた類人猿に引き継がれた、と言うことだ。

まり、時江が見せた凶暴なボノボ写真は、彼女が話した黒魔女伝説元ネタのものということだった。

美和子は恐るおそる聞いてみた。

――それで結局、そのボノボって一体何なの? 時江は言った。

ボノボはかつて類人猿の生き残りであり、黒魔女呪いで凶暴化した、という事だ。時江が見せてくれたあのボノボの群れの中心に映っているのは自分だと確信したが、それを時江には言わないことにした。

時江に余計なショックを与えたくなかったかであるしかし美和子はあることを思い出していた。確か父さんの部屋にある本の中に書いてあったわね……。

それはこんな文章であった。

かつて世界各地の古代遺跡発見された壁画に描かれた怪物達は全て人間脳みそが巨大化したもので描かれており、この巨大な脳内人間を捕食するためのものであって、人間に恐怖を与えることを目的としていたと考えられる……。

美和子は父から教えられた知識必死になって手繰り寄せていた。

そう言えば、この『黒魔女伝説』と『黒魔女の秘法書』が記された時期は一致するんだっけ? 確か、黒魔女人類の天敵のような存在で……そして、『黒魔女の秘法書』の内容は黒魔女に対する畏怖の念が込められているものばかりだったような……

――つまり、黒魔女伝説とは、元々あった『ボノボ伝承』が何かしらの影響を受けて変化してできたものだ、ってことなのね。

美和子はそう考えたのだが、これは大きな間違いだった。そもそもボノボ存在自体がなかったのだから

しかし、時江にとってはどうだったのか分からない。彼女何気なく口にした言葉なのだろうが、この言葉は美和子にとって衝撃的だった。

「じゃあ、あたし、そろそろ失礼するわね」

そう言うと、美和子は部屋から出て行った。

美和子は時江の自宅から逃げるようにして出て行くと、家路についた。

その途中、美和子は違和感を感じていた。誰かに尾行されているような…――誰よ!あたしの後をつけてるのは!! 不安感が頭をもたげてきた。

そして後ろを振り返ると、そこには……見たこともない男が立っていた。

美和子はその男を見てギョッとした。その男は全身黒ずくめなのだ

そして、時折この世のものとは思えない動作を繰り返す…――まるで幽霊みたい……。それに……この目つき……どこかで見覚えがある……。そうだ……あの時のボノボと同じ目をしている……まさか……この男、まさかボノボなの!? その瞬間、美和子は激しい頭痛に見舞われた。

記事への反応 -
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