2022-04-16

今日ネットびとが騒いでおるな……」

眼の前の翁は憂いを帯びた目でディスプレイを見つめながらコーヒーをすする。

「わざわざ言わなくても、そんなのいつものことでしょう。インターネットなんて有象無象罵詈雑言を浴びせ合うつまらない場所です」

「昔はそうでもなかったのだよ」

翁はゆっくりと首を振り、そしてため息を吐いた。

集合知web2.0といった言葉が持て囃され、ゲーム2chまとめwikiは充実し、数々の名コピペブログ記事が日々刻々と生み出されていた。

今の腐海に沈んだインターネットしかたことのない君には信じてもらえぬだろが、かつてのこの場所は、殺伐としながらも輝きに満ちた場所であったのだ」

「とてもじゃないですが信じられませんね」

アーカイブすら失われた今となっては、それを証明する手段もない。仕方のないことだ」

翁はコーヒーを淹れてくると言って席を立ち、後には俺だけが残された。

集合知? 輝きに満ちた場所? バカバカしい。

検索結果はゴミのような記事汚染され、人々は争いを求め、自分こそが正義でありお前らは悪なのだ糾弾しているばかりの、踏み潰された犬の糞のような日常

人間本質の片鱗が表出せずにはいられない場所、それがインターネットだ。

いや、たしかに中には人格者もいるだろうが、それは大多数の愚かで醜悪で、かつ自分がそうである認識できない、そんな救いがたい人間たちの濁流に飲まれしまう。

私はコーヒーカップの縁をなぞりながら、自分はあのような人間共のようには絶対にならない、と思いを新たにする。

やがて戻ってきた翁は、空になっていた私のカップに素晴らしい香りのするコーヒーを淹れてくれた。

翁の手で挽かれドリップされたものだ。

ああ、願わくばインターネットなどには関わらず、いつまでもこのような穏やかな日常を過ごしたいものだ。

しかし、そのような日常を私に提供してくれる翁もまたインターネットからまれ存在ということも事実なのである

その矛盾に私は目をつむる。

愚かでもダブルスタンダードでも構わない。ただ穏やかに、安逸な日々を送れさえすれば、それで十分なのだから

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