2016-11-16

物価水準の財政理論』 (FTPL, Fiscal Theory of Price Level)

物価水準の財政理論』というのはその名前ミスリードもので、基本的には「まともな経済なら、現在政府債務の実質価値は、将来にわたる実質の基礎的財政黒字インフレ税の合計を実質利子率で割り引いた現在価値に等しくなっている」という予算制約式でしかない。ここに、将来までの金利や基礎的財政黒字などはある固定値であるといった追加的な仮定を入れると、政府債務の実質価値一定となるため、政府債務の量と物価水準が比例的関係を持つようになるのでまさに『物価水準の財政理論』という感じになるが、別に将来の金利や基礎的財政黒字などは固定値となる理由はない。固定値どころか、政府債務の量と無関係に外生的に決まる(たとえば政府財政支出を減らしたり、税金を引き上げたりして、財政赤字対処しない)という保証すらない。実際にはこの制約式から言えるのは、ある政府債務の下、現在および将来想定される金利政策税制策、支出政策の組み合わせが決まれ物価水準が決まるということである。たとえば一定金利政策の下で、政府が基礎的財政赤字を早く削減しようとすれば、名目債務が増加しても制約式を満たす物価水準は下落となるケースも考えることが出来る。

ここで、流動性の罠の下では金利政策税制策、支出政策のうち金利政策流動性の罠が続く当面の期間においてゼロで固定値となるため重要度が下がり、残りの財政面の現在および将来のパス物価水準に主体的な影響力を持つ。ただし、流動性の罠にない場合には財政面はその決定的な影響力を失い金利政策との兼ね合いとなってしまう。そして現実的な増減の範囲では財政面より金利政策の方が物価水準に与える影響が大きい(小さな金利政策の変化の影響を打ち消すのにさえ大きな財政面の変化が必要になる)。その結果、流動性の罠にあるときには財政から物価水準を考えるのが正しくても、それを流動性の罠にないときにまでそのまま伸ばせない。

また、財政面が効果を持つの現在政策のみならず将来のパスも含めてであり、いま財政拡張的にしてもその分だけ将来に緊縮が行われると思われてしまうと物価水準への影響力も失われてしまう。流動性の罠にある間は財政拡張を続けることへのコミットに加え、流動性の罠から抜け出したあとには財政は通常時のルールへの復帰にとどめそれまでの拡張による債務の増加分を取り戻そうとはしないことへもコミットすることが重要になる。

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