大学に進学し、ようやく解放されると晴れやかな気持ちで地元を離れたのも束の間、喧嘩の度に両親から着信が入る。
電話があるのは決まって夫婦喧嘩のときだ。電話に出られない時には「もう死にたい!ガチャン!」という音がいつも留守電に残されており、何があったかの察しがつく。
私は仕送りを貰っていた。養ってもらっている身であるのだから、愚痴を聞くのは当然だと思い最初は電話に出ていた。しかし両親双方の愚痴・言い分を聞いてなだめ、折衝役をこなすことにトータルで毎回十時間以上の時間的拘束を受けていることを度重なる喧嘩の中で把握し始めた。また真逆の価値観を持つ両親の気持ちを、それぞれに理解する体を取り機嫌を損ねないよう振る舞うことに精神的にも疲れ果て、私は色々と理由を付けては徐々に電話に出なくなっていった。
父、母双方からの鬼のような着信履歴。愚痴を聞かないことに対する親不孝者のレッテル。出ないことへの罪悪感。死にたいと連呼する留守電。何をするのが人として正しいことなのかが分からない。
大学を卒業し地元から遠く離れた土地で就職をして、27歳になる。問題なのは、私がこの年になっても未だに親の電話に怯えていることだ。
何度も繰り返しあったことなのに、ずっと慣れない。着信が入ると心臓が止まりそうになるし、胃が痛む。いい歳して情けない。私も大概おかしいのだろう。
まーた始まったよ(笑)と思えるようになる日が来るのだろうか。