はるひのの、はるを読んだ。ファンタジーからSFへと鮮やかな変貌を遂げる小説だった。
個人的に最終章を読んでいる途中で時をかける少女を思い出してしまった。登場人物の性別や結末などが、ちょうど時をかける少女を反転したかのように見えたせいだと思う。
幽霊が見える少年と未来からやってきたと語る少女が、ひとつひとつ悲劇を回避していく物語なんだけど、最終章を読み始めたときにぞわっと来た。
言うまでもなくそれまでの四編も充実した内容の日常ミステリーなんだけど、構造的に最終章前編の存在がとてもよく効果を発揮していたと思った。前編を読んでいると、すぐに眉を潜めたくなる。なにこれはって、思わずページを戻ってしまったほどだった。でもそのまま読み進めて後編が始まると一転する。様々な疑問や、残っていた問題が再び集結してみるみるうちに氷解していくのが面白かったし、心地よかった。
加納朋子は今作の「ささら」シリーズを始め、日常のミステリーを多く書いている。そのどれもが、一篇一篇に事件と解決があって、一冊の小説としてみたときにまた大きな謎と解決が用意されているからわくわくする。そもそも連作物の日常ミステリーってそういった構造をなすことがほとんどだと思うけど、氏の小説は出来栄えがとてもよく日常ミステリーの名手といっても過言はないように思う。
なによりも作品全体から感じられる優しい雰囲気が好ましい。読んでいてほっとするし、読んだ後も温かな気持ちになれるので、アクのない爽やかな物語になっていたような気がする。
物語の最終部に、はるひからユウスケへと届くメッセージが胸に迫る。綺麗ごとばかりじゃないけど、確かな意志の強さが感じられる小説だった。