2015-06-12

バーに行く。

今日は美味しいお酒が飲みたいなぁ、それとちょっと人恋しいから世間話でもしたいなぁ、なんて思って近場のバーへ。

ここに来るのは二回目。店員にとっては初めての客と同じ。

メニューが出てくる。俺は店員の顔を覚えているが、彼らは覚えていない。それはそうだ。

一杯目はビールを頼む。何を飲もうか、バーに来てまでビールとも思ったが、今日夏日。体が欲していたのはビールなのだから、誰に遠慮する必要があるのだろうか。

前に来た時に、食事のメニューが気になっていた。それも楽しみにしていて、今夜はお酒を飲みつつ気になっていたカプレーゼとアヒージョを頼む。

あっという間に飲み干したグラスを眺めながら、2杯目に白ワインをオーダー。ちびちび飲む間に、まずはカプレーゼがやってくる。

…美味い…!モッツァレラチーズってこんな味、こんな食感だったか?そうか、今まではピザしか食べたことなかった…。

そしてアヒージョキノコの旨味とニンニクが効いている。このオイルを持って帰って毎日パンにつけて食べたい…。

おや、新しい客が来たようだ。どうやら常連らしい。メニューは出てこない。バーテンダーあいさつもぞんざいに、そしてまた来たな、という笑みを浮かべる。

男は、俺の隣に座る。しまった、座る席を間違えた…。先客から二つ飛ばし偶数の席に座ったものから、男は俺の隣に座る。まだ席は空いてるのに、詰めて座るこの窮屈感。。

時刻は夜9時。バーはようやく始まりを迎える。この時間からバーテンダーが増えるようだ。

今、客が3人、バーテンダーが3人といる。

アヒージョが美味い。バケットの追加を頼んだ。3杯目はラムバック。濃い味のアヒージョに爽やかなライム香りがちょうどよい。

それにしても、おかしいな…少しの人恋しさでこの店を選んだはずが、前回の記憶とは違って今日はあまりしかけられない。

それどころか、先客と1人のバーテンダーが話し始め、そして後から来た常連の客と2人のバーテンダーが会話し始めている。先客もどうやら常連だったようだ。

先客と、常連のその間に座り、かつ常連の客の隣に座る俺には、誰も話しかけない。

あれ。。こんなはずじゃ。。携帯ポケットしまった。食べながらではあるが、俺は前を向いているぞ?おかしいな。。そんなに話しかけるなオーラ出てるのかな。。

あ、、、なんかつまんなくなってきた。

これなんだよ、バーの嫌なところは。いつも常連客が鬱陶しい。俺は、美味しいお酒が飲みたいんだ。会話はほどほどでいい。

でも、どのバーに行ってもそう。常連の客がいて、新規の俺はとても居心地が悪い。居心地が悪いんだ。

ご飯美味しかったんだけどな。ここももう来ないだろう。さようなら。また一つ、近場のバーが消えた。

さて、お会計をしよう。隣の席の常連客と盛り上がっている中、申し訳なさそうにバーテンダーに声をかけた。「お会計お願いします」

すると、バーテンダーは思いもかけないことを言った。「以前にも来られていましたよね?」

おやおやおや。覚えている・・・

まさか。こみ上げる嬉しさとわくわくを抑え、俺は突き放す。「またー。どうせ同じことを他のお客さんにも言ってるんでしょ?」

口説かれたキャバ嬢か俺は。言い終わった後の苦々しさ。でも、ヒントを出して助け舟を出す。「じゃあその時どんな会話してました?」

バーテンダーは困ったような顔をしつつ、やられたーというような表情を浮かべる。「俺さんみたいなお客さんたくさんいますからね(照」

やっぱりな。そうだと思ったよ。ま、そりゃそうだ。でもいいよ、当てずっぽうでも。

占いみたいなもんだろ。当たってるとこっちが勝手に思えば、相手がそれを膨らましてくるみたいな。「いやいいんですよ、銀座お姉ちゃんみたいなプロフェッショナルは求めてませんから

しかし、バーテンダーはそこで終わらなかった。「でも確か、以前はあちらの端の席に座ってらっしゃいましたよね」

おや、おやおやおや。まじかこれは・・・

バーテンダーはスッと金額が書かれた小さな紙を差し出す。思わず、財布から1万円札を取り出すのに手が止まる。

もう少し飲んでも良かったかな。どうしてもう少し早く声かけてくれなかったのかな。そんなことが頭をよぎる。

「思い出せなくてすみません。またいらしてください」そうバーテンダーは言った。

俺は嬉しさを隠しながら答えた。「次があるならね」

逆転ホームランだよ、バーテンダーくん。

君は最後最後で俺の退屈な時間をひっくり返した。

もう次はないなと思っていた俺に、「もう一回だけなら、また来てもいいかな」そう、思わせた。

やれやれ、次に美味しいお酒が飲みたくなるのは、そう遠くなさそうだな。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん