学生の頃、カーキ色のジャケットを SHIPS かどこかで買った。
あまり選ばない色だけどもユニークな形が気に入ったんで着てみた。
しかし数年後、あの服どこにやったかしら? と思ってて探したけれども見つからない。
捨てた記憶もないし売った覚えもない。
不気味に思って、当時近しい友人にスケッチを描いて、聞いてみた。
「いや、そんな服着てんのみたことないゾ」
四六時中一緒にいた彼がいうのだから間違いはない。
ということは、またぞろ夢の記憶ってワケだな。
いま現在の現実と夢が混同することは全くないんだけど、夢と思い出はごっちゃになる。
こういう事が、たまにある。
——…要するに、SHIPS でユニークな形のカーキ色のジャケットを買った夢、それを覚えていたのだ。
むかし見た夢のワンシーンの記憶を、歳を重ね年月が経過した後で、実際にあったことだと誤認してしまった。
だから夢は、なんとなく印象に残った。
カーキ色のジャケットは、ハッキリ確かめた結果、夢だったと判明した。
だが巨大な氷塊の一部だろう。もっと多くの夢の残滓が実在事実のフリをして沈んでいるに違いない。
現実になり代わろうと、息を潜めてチャンスをうかがっている。
そうして久しく関心を向けてない心の一部は、いつの間にか、こっそりすげ替わる。