付き合い始めて少し経った頃、尋ねてみたことがあった。
なんでも昔から、小さい「ッ」の発音をしようとしてどもる事が多かったせいだと彼は言った。
「最近、どこにも連れて行ってくれないのね」
「ごめん、仕事が忙しくて。でももう少しで一息つくから、来週末にも出かけようよ。ベビーシターを頼んでさ」
シターってなんだよ、と口から出そうになったところでわたしは止める。
「どこか行きたい所ある?」
「ディズニーランドかな。案外今は混んでないって、ツイッターで見たわ」
ツイターって、まだどこにも行ってないわよ。
そう声を出しそうになるのをわたしはぐっと堪える。
「それよりまた知らないバグがあったけど、どうしたんだ?」
……ああ。
すぐにそれが”バッグ”のことだと気付いて、わたしは言い訳をする。
「ごめんなさい、一目見て気に入っちゃって」
「ほどほどにしておけよ。この前だって、なんとかっていうアニメのグズ買ってただろ?」
”グッズ”のことだとはすぐに察したが、”クズ”のように聞こえてあまりいい気分でない。
「だからって浪費は良くないだろ。これから何かとお金が必要に――」
「わかってるわよ」
少し険悪なムードが漂い始めるとわたしは立ち上がって冷蔵庫に向かう。
この雰囲気を和らげようと、わたしは冷蔵庫から果物を取り出すと夫の元に戻る。
「ねえ、この前○○ちゃんのお母さんから果物を頂いたんだけど、何だと思う?」
何?と尋ねる夫に、わたしは後ろ手に隠し持っていた果物を披露する。
「じゃーん!これです!!」
「おおっ!パイナプルか!」
「イヤミか貴様ッッ」