魔王を倒した後で、転生前の記憶がよみがえったのだろう。まあ、どうでもいい。俺の記憶では前の人生があって、そして気がついたらちやほやされてハーレム付きの勇者だったということだ。死んだ理由もよく分からない。ピストバイクで坂道を下っていたところまでは覚えているが、なんで死んだのか想像もつかない。事故のときは、事故の前に時間がさかのぼって記憶が消えるという現象らしい。短期記憶はセーブされていないからとかなんとか。
ともかく、いいことだ。勇者のいいとこ取り。ご都合主義転生はこうでなくちゃ。楽してちやほやされてハーレムでもてもてで衣食住全部極上のもの。何も不満はない。
そんなわけで楽しくやっていたら、元勇者パーティの賢者とかいうやつがやってきて
「こいつは偽物だ」
なんていいやがる。まったく、困ったものだ。偽物だと言うならDNA鑑定でもしてみろっての。
「魂が勇者と違う」
結論は簡単だが実際は賢者が長々と説明した。そうなんだ。じゃあ、魔王を倒した後で前世の記憶がよみがえったのではなくて、本当に魔王を倒した後の勇者の体に魂が入り込んだらしい。
「あいつは退屈していた。願いの石で魂の転生をしたのかも知れない」
苦労して魔王を倒した後で、お楽しみも放っておいて転生するとか気が知れない。まあ、賢者は勝手に納得して帰ったので、俺はお楽しみ生活を続ける。