2019-11-21

届かない手紙を書きます

宛て先不明

 堅苦しいあいさつはきらいですが,どうしていますか.

 わたしはこの季節に戸惑っています.きょうだって,そのせいで怪我をしてしまいました.歩いていたら,ふと,金木犀香りがしたのです.山茶花匂いだったらこんなこともなかったでしょうに,電柱でたんこぶを作ってしまいました.

 内緒にしておこうか迷ったのですが,折角ですし言ってしまます.実はきょう,急に思い立って髪を切りに行きました.ばっさりと,すごく短く.美容師さんにたんこぶを笑われましたが,髪型は「素敵ですね」と誉めてくれました.

 突然ですが,あの日のことを覚えていますか.場所は夜の公園,まだわたしが丈の長い制服を着ていた頃のことです.あなたは,わたしの腰までとどきそうな長い髪を梳きながら,拗ねたわたしをあやすように金木犀を髪飾りにしてくれましたね.

なぜ拗ねていたのかなんてもう覚えていません.でも,あのむせ返るような甘い香りがきらいだったわたしは,あの時のことをよく覚えていますあなたに撫でてもらえたのがあまりにも嬉しくて,金木犀さえ愛おしくなってしまった時のことです.

 その数日後,ふと気付いたら,金木犀は小さな花をすっかり金色の雪のように積もらせてしまっていました.もしくは暗がりで気付かなかっただけで,あの日にはもう,金木犀は散り始めていたのかもしれません.

あれから手紙をたくさん書いてみました.もっとも,宛て先が分からないので全部机の隅にしまってあります.でも,それもきょう限りにして,この手紙を書き終えたら,焚き火にしてしまおうと思っています

 そろそろ今年も金木犀が散る頃です.とても寂しいけれど,なぜだか少しだけほっとしています

 さようならでは悲しすぎるので,ほんとうに平凡な言葉ですが,また会いましょう.返事はいりません.では.

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