人間とは大量の原子や分子から成る物体に過ぎない。
そう言う意味では椅子や布団と大差ない。
ならば自我という曖昧な概念に固執して苦しむのは何と無益なことか。
私はあらゆる思考を放棄した。
何気無くイヤホンに手が伸びた。体内に直接愛する人の声が入ってくる。
「この世界には私と愛する人だけいればいい」
昔そんなことを言った気がする。
あらゆる思考と自我すら放棄した私の世界は私の存在のみによって完結する。そこに愛する人の声だけが入ってくる。
この世界には私と愛する人だけになった。
甘美であたたかくて優しい世界だった。
永遠にここにいたいけど、思考を放棄しても腹は減る。ゆっくりと一人で居られる場所を確保するには家賃を払って光熱費も払わなくてはいけない。
私はせっかく見つけた理想郷を出て社会的個人として生きなければならないのだ。
ああ面倒だ。なんて苦痛だ。
明日なんて来なければいいのになぁ。
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