2018-01-14

甘い日本酒

1年ほど前、新しく会社に来た派遣さんは、社会人歴が同じ年数の、年下の男の子だった。

歓迎会最初の一杯、ほぼ全員がビール乾杯の準備をする中、主賓の彼が頼んだのはカシスオレンジだった。

女子力いね〜なんて、隣に座った彼に茶化すように話しかけると、まだ甘いお酒しか飲めないのだと照れくさそうに笑った。

どのお酒が好きですかと聞かれ、日本酒だと答えた。お酒を飲み慣れていないらしい彼は興味を持ってくれたようで、すこしだけ飲んでみたいと言った。

そうして、届いたお猪口に、日本酒をがばがば注いだ。

度数がきついけれどもおいしいと言ってくれたのが嬉しかった。

おいしそうに飲んでくれるのが嬉しくて、お猪口の中身が少しでも減っているのを見つけるたびに酒を注いだ。

きついきついと言いながらも飲んでくれた。嬉しかったので自分も同じ分だけ飲んだ。

相手のお猪口が乾いたのを目ざとく見つけ、互いに注ぎあうゲームだった。

揃ってべろべろに酔っ払って、上司に呆れられた。

ハズレの派遣さんが続いており長続きする人の少ない中で、彼は仕事のできる人だった。

できるふりをしていただけの自分はすぐに追い抜かされた。

少し悔しかった。

そんな彼は去年の暮れに転職先を見つけ、会社を辞めた。勝ち逃げされたような気分でちょっと複雑だった。

送別会二次会で、隣りに座って、彼が頼んだ日本酒を分け合いながらふたりで飲んだ。

ふと、そんなに日本酒好きだったっけ?と尋ねると「誰のせいだと思ってるんですか。あの飲み会が、ここに来てから飲み会で一番楽しかったですよ」なんて言って、笑った。

ぐいと飲み干して空になったお猪口を机に戻すと、彼はすぐに気づいて日本酒を注いでくれた。

もっと一緒に働きたかったなあと思った。

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