気が済むのですか?」
―は?
―何を弁じているのか皆目…
「堪えがたい苦しみ、不幸をもたらしてしまったと」
「はからずもそちらの足を踏みつけてしまったと述べているのです」
―踏みつけるって、正確には甲じゃなく足首から脛を直撃されたんだよ。蹴り飛ばしたと言ってもらいたいな。(それほど傾いた姿勢は相手の協力がなければ維持できない、ある種の共犯関係だとの野次あり)まあ、そちらの身体がこちらに付いてきた、勝手に追ってきた、こちらの視点ではそっちが向かってきたなどという当初の釈明とくらべれば随分進捗したものさ。
「はからずも……」
―その「はからずも」、己の意思とは関係がない、与り知らぬ片足が勝手に飛んでいったとでも言いたげな口上はなんとかならんかね。
「事前の綿密な計画書に基づかれた行為ではなかったということです。一部に意志の関与はありました」
―またそこから始めなきゃならんのかいな。混雑に、揺れに思わず隣人の靴を踏んづけてしまいました程度の話に収めたいの?
「謝っているじゃありませんか。何度繰り返せば済むのですか、私は逃げも隠れもせず、こうして長時間お付き合いしているわけじゃありませんか。我々の認識には些少の隔たりもございましょう、百年費やしても埋まらぬ溝もございましょう。クリーニング代はお渡ししました。お互い発車時刻が迫る身の上です、ここで最終解決といきませんか?」
―わかりました。
「(ニッコリ)では、先にお渡しした名刺を返却して頂かないと」
―え。
「忘れてください」
―あ……。