2017-10-30

「何度謝らせれば

気が済むのですか?」

―だから謝ってないのだって

不快な思いをさせたのであれば申し訳ないと」

―は?

遺憾なことに我々の間に不幸な出来事がありましたと…」

―何を弁じているのか皆目…

「堪えがたい苦しみ、不幸をもたらしてしまったと」

―だから謝罪は具体的に何に対して?

「はからずもそちらの足を踏みつけてしまったと述べているのです」

―踏みつけるって、正確には甲じゃなく足首から脛を直撃されたんだよ。蹴り飛ばしたと言ってもらいたいな。(それほど傾いた姿勢相手の協力がなければ維持できない、ある種の共犯関係だとの野次あり)まあ、そちらの身体こちらに付いてきた、勝手に追ってきた、こちらの視点ではそっちが向かってきたなどという当初の釈明とくらべれば随分進捗したものさ。

「はからずも……」

―その「はからずも」、己の意思とは関係がない、与り知らぬ片足が勝手に飛んでいったとでも言いたげな口上はなんとかならんかね。

「事前の綿密な計画書に基づかれた行為ではなかったということです。一部に意志の関与はありました」

―またそこから始めなきゃならんのかいな。混雑に、揺れに思わず隣人の靴を踏んづけてしまいました程度の話に収めたいの?

「謝っているじゃありませんか。何度繰り返せば済むのですか、私は逃げも隠れもせず、こうして長時間お付き合いしているわけじゃありませんか。我々の認識には些少の隔たりもございましょう、百年費やしても埋まらぬ溝もございましょう。クリーニング代はお渡ししました。お互い発車時刻が迫る身の上です、ここで最終解決といきませんか?」

―わかりました。

(ニッコリ)では、先にお渡しした名刺を返却して頂かないと」

―え。

「忘れてください」

―あ……。

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