いま自分が暮らす現実ではない場所にいる自分を感じる。というよりは、見えることがある。
映画のシーンのように頭に浮かぶ。
映像や音、寒さ・暑さやにおいを伴うこともある。
せいぜい、たとえば夕暮れの線路沿いを歩いている、薄暗くてひんやりとした雑居ビルの階段をのぼっていく……などその程度で他人は出てこず、それゆえセリフもない。
あこがれを感じ、切なさ、なつかしさもある。
私は一連のこれらを「ここではないどこか」と呼ぶ。
そして頭に映像が浮かんでいる何十秒かの間じっとして味わう。
「ここではないどこか」に実際に行ってみたい、あんな場所で暮らしたいというのが、私が何度か繰り返した引越しの動機になった。
でも、ある時から映像が現れなくなった。もう5年くらいたつだろうか。
これまでに見た映画や映像、漫画や小説をまぜこぜにして脳がつくった幻影なのだろうが、インプットは続けているにも関わらず、現れない。
以前は季節の変わり目に現れることが多かったので、最近期待しているのだけれど。
老化かな。