彼が私にとって特別な存在なのだとようやく気づいた。もう会えないのに。
初めて会った時から、なんとなく気が合いそうな雰囲気を感じていた。彼と話していると、不思議と頭の中が整理できて、力が湧いてくるような感覚に襲われた。
育った環境、経済状況、趣味や嗜好…何一つ共通点はないのに、他人とは思えないような懐かしさ。
週末のカフェやバーで朝までお互いの考えを、言葉の限りをつくして話し合った。どちらかの決断の時にはもう一方が背中を押し、苦境に立たされた時には解決策を一緒に考えた。
もちろんケンカをしたこともあった。何か月も連絡を取り合わなかったが、街中で偶然会ったときに、何事もなかったように笑いあって、謝って、また打ち解けられた。
肉体関係は不要だった。彼の眼を見ながら話しているだけで、抑え込みがちだった自分のやりたいこと、自分の思う幸せの形が少しだけ、分かった。何気ない一言がお互いの仕事に大きな好影響をもたらし、自信にもつながった。