鼻からチューブが入り直接栄養が送り込まれて、耳には体調をモニターするコードがつながり父親は生きている。
このまま1年くらいかけてゆっくりと死んでくんかな、と思ったけど、どうもそんな感じではない。
医者はいつその時が来てもおかしくないって言ってたが見た目は、肌ツヤもよかったし多少意思疎通も出来てた。
でも1週間くらいでもう意思疎通も難しく、植物人間のように生きてるだけになってる。
このチューブを抜いたらすぐ死んじゃうんだろうな、ってのがハッキリ感じられる。
体は骨と皮だけだし、「延命治療なんてするな!」って当たり散らしてた頃が懐かしい。
まだほんのちょっと前、夏過ぎまではフガフガ言いながら喋れてたのに。
とくに父親が好きなわけじゃないので死に対する悲しみは無い。
ずっと一人暮らししてて年に1度か2度くらいしか会ってなかったし。
もう生きてるだけの状態だけど、たぶん思考はちゃんとしてるような気がする。よく分からないけど。
意思疎通の手段が無いからなんとも分からない。今何を考えてるんだろう。
最後に残すことができる言葉なんて本人にだって分からないんだろう。
父親の体の中のどのような仕組みで死に向かってるのか分からないけど、でも死に向かってるのは確実に分かる。