高校の同窓会の帰り道、私は電車の窓に反射する自分の姿を見ていた。
高校3年生の秋、夕暮れの淡い陽がさす教室で、彼女は教卓に腰を掛けて本を読んでいた。
「なぁ、何の本読んでるの?」
私の声に彼女は驚いたようで、私を睨みつけて本を胸の前で隠してしまった。
「本読んでただけだよ」
頓珍漢な返答をしてしまったことに気づいた彼女は、再度私を睨みつける。
陽の光に照らされる彼女の顔が赤いのは、陽の光だけが原因ではないだろう。
私を睨みつけるだけで、彼女は本のタイトルを教えてくれそうにない。
「ごめん」
とりあえず謝っておこう。彼女は一向に私を睨んだままであった。
しかし、沈黙の後、彼女は両腕を伸ばして本の表紙を私に向かって見せてきた。
聞いたことのない作者の、聞いたことのない本だった。流行りものでも、古典的な本でもない。
「正確にはお姉ちゃんが借りたんだけど、お姉ちゃんは本を読まない人だから。私が読んで、お姉ちゃんに感想を言うの」
彼女は無表情で、本を持った両腕をそのままに、私から視線を逸らして窓の外を見ていた。
「読みたいなら貸そうか?」
一瞬、彼女は振り返り、
「お断りします」
「だよねー」
笑った。
そして、本を持った両腕を降ろし、教卓横の椅子から鞄を手に取った彼女は、本を鞄に入れて教室から出ていった。