2014-03-16

幻想世界より

 僕は空を見上げていた。

 突き上げるような空だった。蒼穹は、視界の辺境付近から僅かに青くなり始めていて、そして天頂に至ると群青色に近い色を帯びていた。僕は、そのグラデーションを眺めながらに、麦の穂匂いを感じた(実際には僕に匂いを感じる機能はない)気がした。

 視線を下ろす。

 僕の目の前には、ずらりと並んだ、麦の穂の茎が見える。それは、視界の限りにひしめいていて、とてもではないけれど、その向こう側に何があるのかを見渡すことができないほどである

 つまるところ、僕の身長はとても低い。

 麦の穂を超えて平野を見渡すことのできないほどに。

 僕は、その中で一歩を踏み出した。

 柔らかな土壌を踏みしめて――立ちふさがる麦の丈を、掻き分ける形ですり抜けて――そのまま、前へと進もうとしていた。これは、言うまでもないけどちょっとした重労働で、いつになればこの麦の野を踏み越えることができるのかは、全く分からないくらいだった。

 しかし、僕はそれほど経たない内に立ち止まっていた。

 僕の前に、ふと、立ち塞がる影が見えたのだ。

 それは、先程から僕の視界を塞いでいる麦とは、まったく別の、白色をした透き通るような柱であって――つまるところ、それは少女の足だった。

 僕は、視界を上向きにし、そしてそこで僕の方を見下ろしている、少女の笑みを見つけることになる。うっかり、迷子になってしまったとばかり思っていたけれど、少女は僕の歩いている位置をきちんと把握してくれていたようだった。

 少女が、軽く僕に視線を残すようにした後で、僕に背中を向けた。それから、先ほどの僕と同じように一歩を踏み出した。

 僕のそれとは比べ物にならないほど、力強く、そして、移動する距離も大きい一歩である

 それは、僕の眼前を覆っていた麦をぱきぱきと折って、そして、僕の視界を少し広くしてくれるものだった。

 僕は、そんな少女の歩みを見つめながら、少しの間立ち尽くしていた。彼女は僕の前を先導して、そして、幾分その麦の野を、僕にとって歩きやすい地形に変えてくれる試みに、努めてくれているようだった。

 ふと少女が立ち止まって、僕が付いてきているかを、その平たくなった地形をきちんと進んでいるのかを、確かめていた。

 先程よりも、少し歩きやすくなった前方の視野を確認しながら、僕は少女に続く形で歩みを再開する。

 少女が微笑んで、そして、再び僕の視界を広げる一歩を踏み出す。

 僕は、その姿を後ろで眺めながら、少女のゆったりとした足取りに、どうにかして付いていこうとしていた。


 そして、僕は再度、空を見上げてみた。

 群青色の蒼穹がそこにはあった。そして、漂う雲。

 立ち込めている空気の質とか、温度とかは、僕には分からない。

 それを感じる為の、機能が僕には存在していない。

 でも、その色づいた空の表面を見て取ることは、僕にだってできていた。

 僕は正面を向き直る。

 そこに待っている少女の方へと向けて、更に一歩を踏み出していた。

  • しょっぱな「突き上げるような」でお茶吹いた。 無理に難しい表現使おうと背伸びしなくていいよ?(ニッコリ あと全体的に装飾過多・説明口調すぎて無駄に読みづらい。 書き手が自...

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