今まで誰にも話した事はないが、母親はキッチンドリンカーだった。
夕方になると酒を飲み、一応料理はするものの(というか恐らく作りながら飲んでいたのだと思う)、食事はろくに食べず、かなりダウナーな感じに酔った姿を晒し、夜8時には寝ていた。
そんな感じだったから、父親は夜出掛ける事が多かった。父には浮気相手がいた。
小学校の頃からか、もっと前からか、とにかく家族で楽しく夕食を囲んだという記憶はあまりない。
もちろん母親が正気で、まともな家庭の食事風景だった記憶も、きちんとあるが。
あれは小学6年生ぐらいだったと思う。
少し離れた地区に住んでいる子と仲良くなった。
子供心にくだらない話だと思いながらも、切る理由が見つからず、ダラダラとよく話を聞いていた。
ある日、いつものように母親はとうに寝ており、父親も出ていた。
多分私はさみしかったのだと思う。その友達に、初めて自分から電話をかけた。
緊張しながら、いつもみたいに楽しく話がしたかった。
けれど、話は全く続かなかった。
自分は友達に話したい事があったわけではなく、友達もまた、話したいと思う事がなかったのだと思う。
たださみしさが残った。苦い思い出だった。