夜の底が白くなった。
向側の座席から娘が…。
娘が…。
娘…。
たしか娘が…。
えっ。
何。
娘がね。
いたんだよ。
向側の座席にね。
えっ。
夜の底。
暗いっていう意味だよ。
暗かったんだよ。
それが雪で明るくなったの。
学が無いねお前は。
辞書を引きなさい。
えっ。
何。
うるさいな。
私は執筆中だよ。
蛇口が凍って水が出ないって。
いつも寝る前に水を出しておきなさいといってあるだろう。
いらないから。
お前さん、珈琲がいらないって言って
いらないに決まっているだろう。
さっきからね。
言っているけれども。
言っているけれども。
私は執筆中だよ。
ちょっと黙っといておくれ。
えっ。
何。
キャラメルマキアートも抹茶フラペチーノもいらないよ。
お前さん、私が買いに行けっていったら、
行かないだろう。
無碍にするお前さんが、おつかいなんて行かないだろう。
うん。
そうか。
本当に行かないんだな。
一家の大黒柱が頼んでも行かないんだな。
そうか。
じゃあ黙っといておくれ。
えっと。
どこからだっけ。
ここか。
夜の底が白くなった。
大きな声を上げた。
「前に座っている人、痴漢です!」