はてなキーワード: 邏卒とは
「らそつ」
僕は警察署の取調室でボソッと言った。すると取り調べにあたっていた警察官は怒鳴り声を上げた。
「いま何て言った。知らねえと思っているのか。巡査って意味だろう。俺を下っ端だとバカにしてんのか。」
警察官なんてDQNのなるものだと思っていたが、傷害事件を起こして取り調べを受けてみたら、大卒の警察官というのはMARCH卒くらいがなるクソ公務員なのだと思った。
僕は真面目にお勉強をしていた連中より高尚だと思って「邏卒」と言ってみたが、まさか知っているとは……。
「いちいち怒鳴らないでくださいよ。人権侵害だ」
「そこまでバカにするのか。左翼だって逮捕されたら人権侵害だ、人権侵害だと言うだろう。なぜ僕だけいちいち怒鳴られなきゃならないんだか分からない」
怒鳴られることについてはしばらく前に弁護士に言ったが「大変ですけれど頑張って下さい」とだけ言われて終わりだった。友達の鰯野は反戦デモの最中に警察官の前で性器を露出させて逮捕されたのを散々自慢している。クソッ、コネがないと人を殴っただけでこんな目に遭わされるのか。
「人を殴って取り調べを受けているのに『邏卒』とか警察を舐めてるだろ。どんだけ反省してないんだよ。自分だけが怒鳴られるとか被害妄想にもほどがある。それとな、取り調べが人権侵害だと申し入れする左翼はいるが、それで取り調べが緩くなるとでも思っているのか。それも申し入れは警察という組織に対してするもんだ。俺はその窓口じゃない。俺を牽制するために人権侵害だとわめいても何も変わらないぞ。」
僕は警察官の胸ぐらにつかみかかろうとしたが、払われてあっという間に床に組み伏せられた。僕のメガネが床に落ちて割れた。
「自分から人権侵害だと言っておいて反論されたら人権なんてクソ食らえと言って警官に手を出したか。貴様のその思想は絶対に許さん」と警察官は言った。
柝の音は街の胸壁に沿つて夜どほし規則ただしく響いてゐた。それは幾回となく人人の周囲を廻り、遠い地平に夜明けを呼びながら、ますます冴えて鳴り、さまざまの方向に谺をかへしてゐた。
その夜、年若い邏卒は草の間に落ちて眠つてゐるひとつの青い星を拾つた。それはひいやりと手のひらに沁み、あたりを蛍光に染めて闇の中に彼の姿を浮ばせた。あやしんで彼が空を仰いだとき、とある星座の鍵がひとところ青い蕾を喪つてほのかに白く霞んでゐた。そこで彼はいそいで睡つてゐる星を深い麻酔から呼びさまし、蛍を放すときのやうな軽い指さきの力でそれを空へと還してやつた。星は眩ゆい光を放ち、初めは大きく揺れながら、やがては一直線に、束の間の夢のやうにもとの座に帰つてしまつた。
やがて百年が経ち、まもなく千年が経つだらう。そしてこの、この上もない正しい行ひのあとに、しかし、二度とは地上に下りてはこないだらうあの星へまで、彼は、悔恨にも似た一条の水脈のやうなものを、あとかたもない虚空の中に永く見まもつてゐた。