2016-06-16

[]16:増田の興亡

 後増田氏と同盟を結んだ増田(八)軍は西から進撃してくる増田軍を迎撃するため、みやこの脇を流れる増江川に陣を張った。

 敵味方あわせて十五万をこえる大戦のはじまりである

 東の増田軍公称十万の指揮官は、数倍の敵(今日の友)を何度も破った武功でその敵に推薦されて大抜擢された増田左混であり、

副将には増田金吾がつけられていた。

 大将が後増田家の人間ということもあり、彼らは四万の兵を派遣し、残りが増田家(八)の兵である

前の経験から増田左混は同盟軍を信頼していなかった。

 西の増田軍は後顧の憂いがないことを活かして、八万と号する全領地の兵をひっくるめ、当主が指揮している。

 両軍はまず、川を挟んで向き合い、小競り合いを繰り返した。

増田軍の部隊は勝つこともあったが、雑魚ナメクジ増田軍は美しいほど全てに負けた。

 自信をつけた西の増田軍は伍除海の計をかけた上で、敵前渡河を強行した。

 それに対して東の増田軍は、何もしなかった。

 増田金吾が

「敵の半分が渡ったところを攻撃するべきです」

 と勧めても、

「敵が隊列を整えている間に仕掛けるべきです」

 と訴えても、増田左混は同意しなかった。

 あまりに余裕のある敵の様子に、西の増田軍は疑心暗鬼に駆られた。

当主なら「舐められたらおしまいだ」と攻撃を仕掛けるのだろうが、

それより慎重な弟は(何か策があるのでは?)と勘ぐってしまう。

 おりしも増田(四)軍が待ち伏せの策略により奇跡的な勝利を収めた後でもあった。

 しばらく睨み合っていると西の増田軍に不吉な空気が流れはじめる。

「我々を背水の陣にして一網打尽にする自信があるのでは……」

「小競り合いで負け続けたのも、わざとなのか?」

 一方で当主突き上げてくる古参指揮官もいた。

背水の陣とは弱体で忠誠心の低い兵を戦わせるための策。

 殿は我々がそのような兵だともうされるのか!?

 敵が動かず結果的背水の陣になったのだから、ひどいいちゃもんである

このままでは戦えないと判断した当主は、下策と知りつつ再度川を渡って後退することを決めた。

 何もしていないのに敵が下がっていく――

 東の増田軍は目の前の情景に目をみはった。

一戦もしていないため隊列は整い粛々とした動きだ。しかし、士気が落ちているのは明らかだった。

「半分が渡ったところで攻撃を仕掛けるべし」

 増田金吾はいきおいこんで主将に訴えた。今度ばかりは増田左混も重々しく頷いた。

 こうして川に分断された敵を勇躍襲撃した増田軍は――ボコボコに殴り返された。

東岸に残っている増田軍は精鋭ばかりであり、数ほどは戦力が低下していなかった。

 このとき増田軍は「釣り増田」と同時に「捨てトラバ」を用いた。

 捨てトラバトラバース)とは、下がる部隊が次々と横に動くことで雁行をなし、

反撃に際しては一瞬で斜線陣に化ける戦術とされる。

 また、雁行の法則性から部隊を追っていくと、途中が忽然と消えており、

肩すかしを食らったところに斜め前後の隊列から挟撃を受けることもあった。

 もちろん、釣り増田も絶好調

「これは地方とみやこの戦いにござる」

「なんだと!?

「これからはおなごもいくさに活用するべきでござる」

「なんだと!!?

大通りを走る(牛)車は狂人の乗り物にござる」

「おう、そうだな」

容姿に恵まれないと人生は全部ダメでござる」

武功をあげろよ」

 後増田兵は釣り増田に引っかかりまくった。「増江のダボハゼ」の異名を授かるほどだった。

 なお、増田兵(八)は話題に加わらず(田舎者同士が何を言ってやがる……)と上から目線でさげずんでいた。

 ちなみに大将増田左混は本当に何も考えていなかった。以前、彼が連勝したのは敵が弱すぎたのと多大な運のおかげであった。

もっとも、増田金吾の献策通りに戦っても結果は変わらなかったであろう。それくらい両者の実力は隔絶していた。

 東の増田軍は増田家(八)諸将の導きで、ほうほうのていで撤退した。

みやこ周辺は彼らにとって逃げ慣れた道である。あがりはじめた満月が彼らの退路を照らした。

 いっぽう、西の増田軍はみやこを陥落させた。

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記事への反応 -
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