会社を辞めて暇になったので、これまでほとんどしてこなかった読書をしている。
そうすると、今まで自分の人生を通して思いついたと思ってきた自分の中の小さな思想やポリシー、あるいは個人で考えつく世界観、感傷、恋愛経験、虚しさ、悲しみ、小さな喜び……。
そういったものが過去の賢かった人々によって、殆ど書き尽くされていることに気づいた。
そうして世界に目を向けてみると、もうすでに書き尽くされた議論を何度も何度も最初からやり直している人々や、少し言葉を変えて新しい発想かのように発表している人々が殆どであることに気づく。
そう考えると、あまりにも虚しい……。
そして俺が今書いているこの感情ですら、もうすでに書き尽くされているに違いない。
そう思いつつ「いや、オリジナルでないからといって価値がないわけない」と自分を慰めつつ本を開くと、それすらも書き尽くされていた。
俺は本を読むことをやめた。
その心境も既に書いてある。 「書を捨てよ町へ出よう」
同じ轍を踏まないことに意味がある。避けられる無駄な争いは避けられた方が良い もっとも、偉人の有難いお言葉も、練りに練った哲学者の言葉も、近所のおっさんおばさんの言葉も、 ...