長らく実家に顔を出していなかったのだが、最近母親が軽い認知症になり頻繁に様子を見にいくことになったのだ。
スポーツマンで大食漢だった父も今は普通の一人前の食事でも多すぎるくらい。
だが、父はついつい『大盛り』を頼んでしまう。
母や私が食べ終わった頃に困ったように「これ、お前が食べないか?」と大盛り部分を寄越してくる。
食べきれないならなんで『大盛り』なんか頼むのと母は叱るが、いつものことなので、それを見越して最初から私は『少な目』を注文して腹の余裕を確保してある。
人によってはひどい父親だと思うだろう。
だが、私にとっては父が愛おしく思える時間だ。
男尊女卑の強い地域で、昔はいっとう豪勢なお膳が父の前に出された。
父はそれらのご馳走を惜しみなく子供たちの皿に分けてしまい、子供たちが食べる姿を嬉しそうに眺めながら大盛の白飯と汁をお代わりしていたものだ。
老いて食欲が落ちた自分を認めたくないという見栄も、一番のご馳走を子供に分け与えるという染みついた習慣も、私の好きな父の一部だ。
あと何度、父と母と外食する機会があるだろう。