ツァラトゥストラの説話の中で精神の三段の変化が述べられる。重荷を背負って砂漠をあゆむ駱駝に始まり、獅子、そして幼児という変化ある。キューブックの2001年宇宙の旅でも、冒頭でツァラトゥストラが流れ、宇宙船の船長が幼児になって終わるので、ニーチェの作品を意識していることは間違いない。では駱駝は類人猿に、獅子は人間に代表されることになる。ではあのモノリスは?三段の変化の章で「だが、この上もなく孤独な砂漠で、今や第二の変化が起こる。精神はここで獅子となる。」と述べられ駱駝が獅子に変化するのだが、特にモノリスのような重要なきっかけは登場しない。キューブリックはシャイニングでも永劫回帰を示唆するなどニーチェの思想を取り入れているように思えるが、この映画自体はサイエンス・フィクションなので、厳密にニーチェの議論を反映しているわけではなさそうだ。ニーチェの思想が示唆されいる作品には、存在の耐えられない軽さやサタン・タンゴがあるが、どれもその思想を取り入れたはいいものの、よくわからない作品になっている。謎を孕んだ哲学書を題材にすることで、作品に深みを出そうとしているのかもしれない。