私は、波で揺れる船上から降りて、ようやく土の固さの安堵を足で踏み締めた。真っ暗で、静かで、潮の匂いがした。
私は長い旅のあとで疲れていた。
私の長い旅の終わりに、まだ夜も明けきらぬ早朝、フェリーは港に到着したのだった。
船内のアナウンスが到着を告げると、船酔いの辛さなのか、寝不足の辛さなのかわからない私の身体に、革だけがやたら重く収納性の悪い古い鞄をひっさげた。重い鉄の甲板の上を歩き、フェリーに積まれた私の車へと向かった。何台もの車を、てきぱきと誘導する船の乗組員に案内されながら、私も車に乗りこんだ。自分の番になると、ゆっくりとハンドルを切って、フェリーから地上へと繋がるスロープを、もったりとしたスピードで降りていった。
そうして、波に揺られ続け、狂った蝸牛を閉じ込める気分で、私は地上の健やかさを味わっていたのだった。しかし私は数分真っ暗な海を眺めやるやいなや、車の鍵をポケットから取り出して車へ戻った。
身体は長い旅の気怠さの中に居たはずだったのに、目だけはすっかり醒めていた。身体の疲れとは反対に、キーを思い切り回してエンジンをかけた。
何台ものトラックが、太い道路を走っていく。追い越し車線で走るか、このまま走行車線で走るか迷う。迷いながらも時々、追い越し車線でぐんとスピードを出してみる。けれども、すぐに後ろに馬力のありそうな車が見えて、また走行車線に戻る。これを繰り返していった。