彼女と付き合ってもうすぐ2年、同棲を始めてもうすぐ1年が経つ。
同棲すると結婚が遠のくと言う。この1年、僕はその言葉の意味を身をもって実感した。毎日一緒にいると、彼女の嫌なところ、見たくなかった一面がどうしても目に入った。ひとつひとつは大したことではない。掃除機が出しっぱなしであるとか、観葉植物を買ってきてはすぐ枯らすとか、何にでもチーズを入れたがるとか。しかし、それらのことが積もり積もって、僕は彼女との生活に息苦しさを感じ始めていた。また彼女も、彼女の両親も、それに僕の両親も、僕たちの結婚を期待しているという周囲の状況も、息苦しさの一因だった。やっぱり1人の方が楽だ、結婚なんかしない方がいいんじゃないか、いつしかそんな風に考えるようになっていた。
昨日までは。
最近僕たちはニンテンドー3DSのスマブラを中古で買い、寝る前に少し遊んでいる。彼女はカービィをよく使い、敵を吸い込んでは吐き出すことに喜びを見出しているようだ。
昨日彼女は、キッチンに立って料理を作りながら、おもむろにスプーンを「えいっ、えいっ」と振り出した。「何してるの?」と僕が聞くと、「スターロッドの練習」と彼女は答えた。
スターロッドとはスマブラに出てくるアイテムで、振ると星が飛び出す杖だ。
いい歳をしてスプーンを振り回すその姿と、僕に向けられた子供のような顔を見て、僕は笑った。
もうすぐ付き合って2年の日が来る。その日にプロポーズをしよう。もしかしたら、なぜ結婚しようと思ってくれたのか、と聞かれるかもしれない。