2018-01-07

転げ落ちる話

ポリ袋の音を合図に、猫がやってきた。袋には餌が入っているということを覚えてしまっている。パブロフの犬ではないが、これも条件反射というやつだろう。

餌は餌でも今回は僕の餌だ。

「違うよ。これはお前には毒だよ」

そう言って僕はチョコレートを頬張る。

何もしなくても腹は減る。大して働きもしていないのに、時間が経てば食料が必要になるのだ。

猫の話ではなく、僕のことだ。

まともな仕事をしなくなってもう三年になる。仕事で疲れ果ててしまい、消え入るように辞めたのが遠い昔のことのように思える。

新しい仕事はなかなか見つからなかった。毎日のようにハローワークに通っても、自分の思うような求人は見つからない。その中でもまだ妥協できそうな求人に応募するが、結果は不採用職種経験で若くもない男など、どの会社も欲しくはないのだ。

僕は普通転職活動を諦めて、職業訓練に通うことにした。

職業訓練校には自分よりも年上の人がほとんどで、二人だけ十代の若者がいた。そのうち一人は途中で来なくなった。僕は職業訓練校のなかで二番目に若い生徒になった。

僕は真面目な生徒だったので、成績も優秀なほうだった。職業訓練で取れる資格はすべて取得して、上位の資格にまで手を出せたほどだ。

僕は職業訓練と並行して公務員試験受験しており、そのうちの一つに合格した。学校先生スタッフも喜んでくれた。

僕の人生はやっと上向いていくのだと思った。

けれど、そんなに甘くはなかった。僕はこの時から下へ下へと転げ落ちていくことになったのだった。

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