「オオカミ!!すぐにげて!!」
今では別の少年が羊飼いをしており、オオカミが来ると村人たちに必死の形相で繰り返し大声で叫ぶ。しかし……
「まぁ、オオカミじゃなくてよかったじゃないか。無事が何よりだよ」
5年前のオオカミ襲撃時には、オオカミ少年や羊だけではなく、多くの村人も犠牲になった。
村人たちはオオカミ少年のウソが油断を招いた結果被害を拡大させてしまったことを反省し、新たな羊飼いの少年には、オオカミを見かけたらすぐみんなに避難を呼びかけるよう、強く言い聞かせた。
この新しい羊飼いの少年は、オオカミ少年とは反対でとてもマジメな少年であったが、良くオオカミを見間違えた。この前はタヌキだった。
「今度はキツネか。いい加減にしてくれよ。これじゃオオカミ少年と変わらないよ」
「大体、言い方が大げさすぎるんだよ」
するとそれを聞いた他の村人たちが一斉に非難した。
「オオカミの群れを確信してからじゃ遅いってことがわからないのか!」
「オオカミかどうか判断する時間が無い以上、強く呼びかけるしか無いだろう!」
「まったく、お前みたいなバカはオオカミに殺されればいいんだよ」
それ以降、愚痴をこぼした村人は何も言わなくなった。
その後も羊飼いの少年の見間違えは改善されず、あれから更に数年経った今では多くの村人が羊飼いの少年の呼びかけを聞いても避難することはなくなっていた。
ここまで信頼を失っているのにもかかわらず、羊飼いの少年やその呼びかけに公然と異を唱えるものは誰もいなかった。
いまや羊飼いの少年の呼びかけを非難することは不謹慎とされていたし、なによりそのことで村八分にされることを誰もが恐れていたから。
……
「オオカミ!!すぐにげて!!」
村人たちはその声を聞くと一旦足を止め、やがて何事もなかったかのように日常に戻った。
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