宮崎駿がまだ声優をちゃんと起用していたという作品として魔女の宅急便が挙げられることがあるが、高山みなみの声はあまりキキの見た目に完璧にハマってるという感じではない。そのことはとくに冒頭から前半にかけてのシークエンスにおいて顕著で、画面に映るキキから想像される声と、実際に発する声を比べてみると、少し低くハスキーに聞こえるはずだ。高山みなみはもともとウルスラ役として入ったのをキキとの二役に抜擢されたという経緯からもわかる通り、高山みなみの声とバッチリ適合しているのはウルスラの方だ。ウルスラのようなキャラクターにとって、頼りになるお姉さんの声がうまい高山みなみはとてもマッチングしている。一方で、キキのような幼い少女については、より幼い声を出す声優の方がマッチしているように思えるはずだ。
しかし結局のところキキは、映画全体を通して高山みなみでしかあり得ないという感覚に貫かれている。なぜかといえば、キキとウルスラは表裏一体であるキャラクターだからだ。そのことはこの映画の山場の一つにもなっている。かつてキキと同じように悩んでいたウルスラとの出会いと交流が、キキの成長を支えていく。高山みなみが二役で演じきった山小屋のシーンは宮崎駿のアニメの中でも1,2を争う名シーンと言っていいだろう。
これは少女の可愛さを愛でるために「少女らしい」声質の声優をあてがってしまうような、オタク的想像力からは生み出し得ない価値だ。ここには後の宮崎駿作品でオタクから非難されるような配役と同じ思想がある。